アメリカでの日常の前提ともいえる政治
アメリカに住む上で、「政治」は一般的な日本人が思っているよりよほど重要です。日本国内での「政治」は良くも悪くも「日常」とは別のものとして扱われています。1950年代60年代の大衆政治の失敗や混乱を契機に日本人は政治から遠ざかってしまった、と歴史学者は指摘しますが、何はともあれ多くの日本人にとって、「政治とは政治家がするもので、私たちには関係が薄い」、という意識が根強くあります。
逆に、アメリカでは政治は日常生活の前提のようなものです。アメリカに住む一般市民の中で、政治的な立場を持たない人、もしくは曖昧な人、というのは、今ではほぼ絶滅危惧種と言っても過言ではありません。そして、その立場によって、よく通うスーパーや職業や趣味まで、すべてに偏りがあります。
日本でいえば、セブンイレブン派かローソン派か、もしくはスタバ派かタリーズ派かで、支持政党がほぼわかってしまうようなイメージです。
その政治感覚の醸成度によって、アメリカ在住歴がわかってしまう気がします(笑)
いずれにせよ、アメリカの政治制度の基本を知ることは、それだけ日常生活にも重要であることは確かです。

アメリカという国の成り立ち
アメリカで教育を受けると、米国の歴史はかなりみっちり教えられます。基礎として、どうしても覚えておきたい、3つの年がこちらです。
- 1776年7月4日:アメリカ独立宣言
- 1865年:南北戦争終結
- 1945年:第二次世界大戦終結
1776年7月4日はアメリカの建国の日として記念されています。以来、現存する民主主義としては世界最古・最長の国として栄えてきた、という歴史とプライドがあり、7月4日は毎年建国の日として大騒ぎします。
1861年~1865年、米国を二つに分断し4年間も続いた南北戦争は、アメリカ社会を根本的に変えたのでした。特に、奴隷解放という歴史的な出来事は、今なお人種差別が根強く残るアメリカにおいて重要な意味を持っています。「北」に住んでいるか、「南」に住んでいるかで、教えられる歴史が変わったりするのは、いまだにこの戦争が尾を引いているから、と言えます。特に人種差別を受け続けてきた人々にとって失礼の無いよう、最低限この年だけは記憶しておきましょう。
1945年の世界大戦終結は、同時に新しい世界秩序の構築でもありました。日本とアメリカの関係の大枠は、この時に決められ、80年たった今でも、首脳会談では必ず取り上げられる話です。一般的なアメリカ人にとっては、日本は「敗戦国 ⇒ 同盟国」という基礎認識です(それ以前の認識はほぼないか侍のイメージ)ので、必ず覚えておきましょう。
極端な話、1776年=アメリカの誕生日、1865年=内戦と奴隷解放、1945年=アメリカの同盟国としての日本の誕生日、というイメージです。

世界最古の民主主義、アメリカの仕組み
1776年に誕生して以来、1865年、1945年と二つの大きな変化を経て、今なお進化し続けているアメリカですが、その大まかな仕組みはそれほど複雑ではありません。おおざっぱに言えば、最低限次の5つのことを覚えておきましょう。

Constitution
憲法

Congress (Senate and House of Representatives)
議会(上院・下院)

President
大統領

Supreme Court
最高裁判所

State governments
州政府
まず、憲法ですが、1787年に制定、翌年に発効されて以来、ずっとアメリカの最高法として国の在り方を規定してきたものです。アメリカ政府がどのような形で存在するのか、その役割は何か、できること・できないことを決めています。簡単に変えることはできず、今までなされてきた変更は27を数えるのみです。
憲法の内容は、小学生の時から教わります。その分、憲法に基づいて権利を主張することは、多くのアメリカ人にとって身に染みた行為となっており、日常生活の一部と言えるほど重要です。
アメリカの国会は、立法府、つまり法律を決める機関で、選挙で各州から選ばれた代表が議員を務めます。上院と下院とに分かれており、それぞれ別の選挙の仕組みや権限を持っています。場所によっては激戦区であったりするので、市民活動が活発であるときもあります。
大統領は言わずも知れた存在です。莫大な権限を持っており、世界における最高権力者とも言えるでしょう。政策の実行は基本的に大統領に一任されています。
最高裁判所は日本に比べるとかなり強力な権限を持っています。というのも、9人の判事から構成される裁判所ですが、大統領が施す政策や、議会が制定した法律のどちらについても、その合憲性、つまり憲法にしたがっているかどうかを判断できるからです。大統領が違憲、つまり憲法に違反した行為をした場合、それを阻止することができます。また、議会や州が定めた法律が違憲であるかどうか判断するのも、最終的にはこの最高裁判所です。
最後に州政府ですが、日本の都道府県制度とは違い、少なくとも形の上ではアメリカとは州が集まってできた連邦、ということになっています。つまり、州ごとにかなり自由に法律を作ることができるようになっており、州政府の持つ権限は絶大なものです。例えば、州ごとによって運転免許の制度は違い、簡単なペーパー・実技試験のみで14歳から免許が取れる州もあれば、講習を受けることが必要な州もあります。
以上、アメリカ政府の5つのパーツを覚えておけば、とりあえず日常会話やニュースなどもわかりやすくなるでしょう。

政党政治・二極化
最後に、日常生活では最も重要ともいえる、政党についての説明です。
アメリカはもう一世紀以上、2大政党制が続いています。つまり、アメリカの政治は2つの政党の競い合いともいえるでしょう。
保守的とされるのが、Republican Party=共和党で、進歩的とされるのがDemocratic Party=民主党です。
共和党は基本的に南(旧奴隷保有州)と内陸部・中西部に強く、民主党は北部と東・西海岸に強いです。大きな都市が多い海岸沿いは特に民主党寄りで、田園地帯が延々と続く内陸部や南部は共和党がほとんどです。
また、共和党はキリスト教色が強く、かなり熱心な宗教家や信仰者も多いです。
支持政党によって、政策や世界観がかなり違っており、会話がかみ合わないことは日常茶飯事です。最近では、ジェンダーに関する論争が激しいと言えるでしょう。トランスジェンダーの人々のトイレの使用に関するものなど、まさに日常生活上のことであり、二極化に伴う対立は白熱する一方です。
こうした中、非政治的であることは極めて困難であると言えるでしょう。特に、日本人として人種差別を体験することも、地域によっては少なくない中、二つの世界観に引き裂かれる社会でどのように振舞うべきか、難しい問題です。ですが、まずはこうした記事を通じて、その実態を知ることから始めることが重要です。